観測機器開発xプロジェクト
KAGRA
KAGRAは、岐阜県飛騨市神岡の池ノ山に埋設されている日本初の本格的な大型重力波望遠鏡です。3kmにも及ぶ2本の坑道をL字型に掘削し、そこに敷設した真空容器の中をレーザー光が往来するという大規模なマイケルソン干渉計が検出器の本体です。干渉計を校正する鏡をあらゆる雑音から守るために、先端技術センターでは、光学機器や防振装置などの設計製作を行っています。また、KAGRAが次に目指す性能向上で必須となるサファイア製の鏡の開発にも貢献しようとしています。
TMT / 近赤外線撮像分光装置 IRIS
IRIS(InfraRed Imaging Spectrograph)は日米加中の国際協力で開発が行われています。日本は赤外線画像を取得する撮像系を担当しています。先端技術センターでは、液体窒素温度下(約-200℃)で回折限界の結像性能を持つ光学系と10年間メンテナンスなしで稼働する機械駆動系、一億分の一度の角度精度で天体の位置を測定する手法の開発等、これまでにない技術課題に挑戦しています。
TMT / 広視野可視撮像分光装置 WFOS
Producted by CIT
WFOS(Wide-Field Optical Spectrometer)は可視光の天体画像とスペクトルを取得する機能を持っている装置です。宇宙空間における銀河間ガスの大規模構造解明などの成果が期待されています。アメリカ・中国・インドとともに開発が進められていて、先端技術センターではマスク交換機構の設計や面分光ユニットを組込むアップグレード計画の検討を行っています。
すばる望遠鏡 / Hyper Suprime-Cam (HSC)
HSCは、すばる望遠鏡の主焦点に搭載されているデジタルカメラです。先端技術センターで開発されたカメラ部には、焦点面に116個のCCD(合計約8億7000万画素)が並んでいます。CCDはデュワーに封入され、-100℃に冷却して、専用のエレクトロニクスで読み出されます。HSCは広視野、高解像度、高感度という特色を生かし、新しい天体や現象を探査する研究に力を発揮します。また重力レンズ効果を用いた、ダークマター分布の直接探査を目的とした観測も行っています。
HSCマップ http://hscmap.mtk.nao.ac.jp/
ALMA / 受信機保守
先端技術センターでは、2014年2月まで約10年にわたりアルマ(ALMA : Atacama Large Millimeter/submillimeter Array)望遠鏡搭載用の3種類・合計219台の超高感度超伝導受信機の開発および製造・出荷を進めてきました。出荷した受信機は現在アンテナに搭載され、観測に使用されています。アルマ望遠鏡では、不具合が発生した受信機はそれぞれ開発元が責任を持って修理をおこないます。また、日本で製造した受信機に不具合が出た場合の修理体制を整えつつ、測定系の改良も行っています。
ASTE・野辺山45m望遠鏡
ASTE 用新規クライオスタット内部(右)
アステ(ASTE:Atacama Submillimeter Telescope Experiment)は、アルマ望遠鏡から10kmほど離れた場所で国立天文台が運用する直径10mのサブミリ波電波望遠鏡です。また、野辺山45m電波望遠鏡は、野辺山宇宙電波観測所で約30年運用されている国内最大のミリ波電波望遠鏡です。先端技術センターでは、これらに搭載する新規クライオスタットや搭載受信機の開発、改良、サポートを、国内外の研究機関や大学と協力して行っています。
将来に向けた新規技術開発
更なる高周波化、広帯域化、多素子化を目指す開発や、新しい方式での観測に向けた基礎技術開発を行っています。これらは、アルマ望遠鏡をはじめ、アステ望遠鏡、野辺山45m望遠鏡のほか、国内外の様々な望遠鏡や人工衛星への搭載を目指しています。
SOLAR-C_EUVST
(c)国立天文台/JAXA(Solar-C WG)
020年代半ばの実現を目指して計画されている次世代の太陽観測衛星です。高い解像力と感度をもった観測装置により、一万度の彩層から数百万度を超えて加熱されるコロナまでの広い温度域を、隙間なく分光観測します。プラズマやエネルギーの流れを捉えるこの先鋭的な観測を実現することにより磁場により引き起こされる太陽活動現象の機構の解明を目指しています。
CLASP & CLASP2
(c)国立天文台、JAXA、NASA/MSFC
NASAの観測ロケットを使って、太陽の彩層・遷移層(彩層とコロナの間にある薄い層)が放つ紫外線域のスペクトル線を、高精度(<0.1%)で偏光分光観測するプロジェクトです。彩層・遷移層の磁場の直接計測を目指しています。2015年の初飛翔実験(CLASP)では、ライマンα線(波長121.6nmの水素原子が出す輝線)の偏光分光観測に世界で初めて成功し、偏光に潜むハンレ効果の手掛かりをつかみました。
2019年の再飛翔実験(CLASP2)では、電離マグネシウム輝線(波長280nm)の偏光分光観測により、彩層底部からコロナ直下の彩層最上部に至る磁場の様子が明らかとなりました。このような新しい観測技術の確立を目指す開発は、その科学成果とともに、SOLAR-Cなどの次世代衛星計画への布石となります。
SUNRISE-3
(c)MPS
SUNRISE-3は2022年にフライトを計画する国際共同気球プロジェクトで、口径1mの大型光学望遠鏡で成層圏から太陽を観測します。高解像度で高精度な近赤外線偏光分光観測により、太陽大気における磁場の3次元構造を測定し、磁気エネルギーの輸送と散逸過程に迫ります。気球フライト時の熱真空環境でも性能を発揮する光学構造設計と製作に加えて、性能を実証する試験を先端技術センターのクリーンルームと熱真空設備で実施しました。
JASMINE衛星
(c)国立天文台
赤外線で位置天文観測を行う世界初の衛星計画で、2020年代後半の打上げを目指しています。
可視光では見通せない天の川銀河の中心領域にある星々の位置と動きを、10万分の1秒角に迫る高精度で測定します。これにより銀河中心に潜んでいる天の川銀河全体の変遷の痕跡を捉え、天の川銀河全体の形成史を解き明かします。また、太陽より軽い恒星周りの生命居住可能領域にある地球型惑星の探査も行います。